こうの史代『夕凪の国 桜の国』漫画感想/新装版との違い

原爆ドーム画像

こうの史代先生の名作漫画『夕凪の街 桜の国』。

戦後の広島と現代の東京を舞台に描かれるこの作品は、日常生活に影を落とす原爆やその後遺症について扱っています。現在、2つの出版社から発売されていますが、今回はその違いを紹介したいと思います。

こうの史代『夕凪の街 桜の国』とは?

『夕凪の街 桜の国』は2004年に出版されたこうの史代先生の漫画作品です。

手塚治虫文化賞新生賞と文化庁メディア芸術祭大賞をW受賞した、こうの先生の代表作のひとつです。また、この作品のあとに別の切り口から太平洋戦争中の広島を舞台にした作品が『この世界の片隅に』があります。

この漫画は終戦から10年後の1955年の広島を舞台にした「夕凪の街」と、1987年の東京を舞台にした「桜の国(一)」、その続編である「桜の国(二)」の3編から成っています。

3世代にわたる家族が原爆、そしてその後遺症と向き合いながら暮らしていく物語。戦後の広島と高度経済成長後の東京を舞台に2つの物語がリンクしていく構成になっています。

この作品の特徴は戦争や原爆の被害を直接的に描くのではなく、あくまで間接的に描いているという点です。生き延びた人たちに身体的・心理的に影響を与え続ける原爆後遺症。それと向き合いながら生きていく家族に焦点を当てています。戦争を正面から凄惨に描くのではなく、日常生活に落とし込んで描くことによって、より生々しさと傷の深さを表現しています。

双葉社版とコアミックス新装版の違い

在、手に入る『夕凪の街 桜の国』の書籍は2種類あります。

ひとつは双葉社が出版しているもの。もうひとつはコアミックス(ゼノンコミックDX)から出版されているもの。こちらは新装版として、2022年に発売されています。

漫画自体はどちらも同じ内容ですが、装丁やそのほか収録内容に違いがあります。

今回はその違いを詳しく紹介していきたいと思います。

双葉社版『夕凪の街 桜の国』


まずは以前から販売されている双葉社のもの。

双葉社が発行している月刊漫画雑誌『漫画アクション』に連載された「夕凪の街」と「桜の国(一)」に、書下ろしの「桜の国(二)」を加えて2004年に単行本として発売されました。

内容については、下記のとおりです。

双葉社版『夕凪の街 桜の国』のもくじ
  1. 夕凪の街  …P5
  2. 桜の国(一)  …P37
  3. 桜の国(二)  …P53
  4. 主な参考文献…P99
  5. 解説    …P100
  6. 広島中心部地図…P101
  7. あとがき …P102

漫画3部に加え、劇中の参考文献や解説・広島の手書き地図など作品背景を知ることのできる情報が巻末に付いています。サイズはA5版で、用紙は多少光沢のある上質紙が使用。冒頭4ページのみカラー印刷です。

コアミックス版『夕凪の街 桜の国 新装版』


2022年にコアコミックス(ゼノンコミックDX)から発売された新装版。

こうの先生の初期作品はおおむね双葉社から刊行されていましたが、2022年に別の出版社であるコアコミックスから「こうの史代新装版シリーズ」として装いを改めて再発売しています。

新装版と銘打っているので、作品本編はそのままに関連する短編やエッセイを収録しているところが特徴です。2022年内に6作品8巻が刊行され、初回限定でポストカードや応募者全員サービスなどの特典も付いています。

内容については、下記のとおりです。

コアミックス版『夕凪の街 桜の国 新装版』の内容
  1. 夕凪の街   …P5
  2. 桜の国(一)   …P37
  3. 桜の国(二)   …P53
  4. 主な参考文献 …P100
  5. 解説     …P101
  6. 広島中心部地図…P103
  7. あとがき   …P104
  8. 夕凪と桜の日々…P107
  9. 広島紀行   …P113
  10. Y先生のこと  …P119
  11. 風の中の夢  …P126
    ※8~11は新装版の特別収録

双葉社版と同じ内容に加えて、4つの特別収録があります。

まず、あとがきとは別に2005年に改めて作品について語った「夕凪と桜の日々」。作品の描かれた背景や意図について書かれているので、本編の補足として読むと理解が深まる内容になっています。

次に「広島紀行」
こちらはこうの先生が2008年1月に広島に行った際の手書き日記とラフスケッチが紹介されています。続く「Y先生のこと」は自身の小学生時代の思い出について語ったエッセイ。この2点は直接本編には関係ありませんが、こうの先生の出身地であり作品の舞台でもある広島を扱った作品です。

最後に収められている「風の中の夢」は見開き1ページの短編漫画。

特別収録の4つのエッセイ・漫画はすべて別々の雑誌や媒体で掲載されたものですので、新装版としての意義はあるかと思います。初回封入特典としてポストカードが付きますので、こちらも必見です。

サイズはB6サイズで、用紙は通常のコミック紙。冒頭と巻末の4ページはカラー印刷です。

結局どちらがおススメか

中野通りの桜並木

『夕凪の街 桜の国』は2つの出版社から出ていますが、結局どちらがおススメなのか。

こうの先生の漫画を新たに読み始める人には新装版をおススメします。

新装版は双葉社版には収録されていない4つのエッセイや漫画が収録されており、より多面的に本編を理解することができるためです。また、装丁や扉絵など細部のデザインも現代風にアレンジされています。

ただし、新装版は用紙の質があまり良くない点が注意です。

双葉社版は白色の上質紙が使われているのに対して、新装版は漫画雑誌によく使用されるフカフカのコミック紙です。何度もじっくり読みたい、できるだけいい状態で保存したいという方は双葉社版をおススメします。

また、双葉社版は電子書籍でも発売しています。最も安価に購入できるのは電子版です。