地下霊場を巡礼できる定泉寺 瑜伽洞を歩く(田谷の洞窟)

横浜市の端っこ、栄区に位置する田谷山 定泉寺。
一見、何気ないふつうの真言宗寺院ですが、境内には田谷の洞窟と呼ばれる洞窟が残されています。

横浜に残る地下巡礼空間

定泉寺本堂

JR大船駅から、戸塚バスセンター行きのバスで10分ほど。
洞窟前バス停で下車すれば、すぐそばです。

定泉寺は木々に囲まれた閑静なお寺。

巨大な地下霊場があるなど想像ができません。洞窟を拝観する場合は、本堂横で志納料を払います。

大人400円、中高生200円。
チケットとパンフレットと蝋燭をもらいます。

パンフレットには洞窟内の略図が載っているのが嬉しいです。洞内の通路や霊場の空間配置は芸術的。見てから入るもよし、帰ってから思い返すもよしです。

この洞窟は、正式には田谷山瑜伽洞(ゆがどう)といい、鎌倉時代初期から続く修行場でした。
江戸時代まで拡張されていった洞内は、三段構造で総延長は1km以上に及びます。(参拝できるのはごく一部)

滝や水路もある田谷の洞窟

志納料を支払った参拝者は洞窟へ向かいます。

本堂の右手、墓地を抜けた先に洞窟の入り口があります。
水路の橋を渡って、斜面に開けられた小さな入口から入洞します。

洞窟の発端は横穴式の住居や古墳であったとも言われていますが、確かなことはわかっていません。
寺院自体の開創は室町時代と言われており、洞窟はそれ以前から修行場とされていました。

その昔、鎌倉時代には和田義盛の三男である朝比奈三郎の館があったとも言われ、
和田合戦の際に敗戦色が濃くなると、三郎は洞窟の奥へと入り、そこから落ち延びていったとの伝説もあります。

謎に包まれた、不思議の多い洞窟です。
薄暗く、複雑に入り組んだ洞内を、順路に従って参拝する方式です。

はじめに天井の高い通路を進み、やがて右に狭い通路へと入っていきます。その先は幾度も階段や曲がり角が多用された、迷宮のような通路が続いています。進入禁止の通路も見受けられ、順路の案内が、無かったら迷ってしまいそうなほど。

洞内の壁面には行者によって刻まれた本尊ほか多くの仏像が彫られており、四国・西国・坂東・秩父などの札所本尊も配置。巡礼空間は通路上にありますが、天井が高くなっていたり、ドーム状の空間になっていたりします。

その後も、幾度も通路を折れ曲がりながら、徐々に奥へと進みます。
順に地下へと潜っていくように感じます。

五大明王の掘られたひときわ広い空間を過ぎると最深部となり、高野山奥の院と名のついた人工の滝が姿を現します。ここからは通路の隣に水路が流れていて、不思議な空間となっています。

水路と別れを告げたあとは狭く蛇行した通路を進むと、入り口付近の通路へと戻ってきます。薄暗い世界の中、ぐるぐると地下世界を巡って帰ってくると、なんとも外の光が眩しいことか。

想像もつかないほど、地下深くまで広がった通路。
外の光も届かない世界で、多くの人目に触れずに現在まで残された真言密教の世界に驚きの連続でした。真空された空間で、修行場の空気感を現在まで残しています。

定泉寺玉石

境内には子授けの玉石が祀られています。
河原にあるような丸石が信仰の対象で、これを用いて祈願すると子授け・安産にご利益があるそうです。

定泉寺の場所